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TRIP 海外

【カンボジアの悲劇】2012初めてのバックパッカー【#3】

※この記事は2012年のタイ、カンボジア、ラオスの旅を元に2019年に新たに書き起こしたものです。

2011年、渋谷のボロアパートでルームシェアをしながら、フォトグラファーになると言う夢を言い訳にダラダラと過ごしていた僕に3.11は突然やってきた。安易な僕は何かをしなければという衝動に駆られ、翌年には仕事を辞め大型のバックパックを背負いタイに降り立っていた。

#1タイ編から読む 

#2カンボジアの出会い編から読む

#3 若者しか居ない国の暗い過去

この国には若者しかいない。僕はカンボジアに入ってからずっと抱えていた違和感の正体に気づいた。

他の国とは全く違う、どんな国とも違う独特のエネルギーの原因はどこに行っても若者しか居ない事にあった。警察官も青年だし、思い返すと本当に今まで若者にしか出会ってないような気がした。

そう秩序の中心が若者なのだ。

そしてそれにはとても悲しいこの国の過去があった。

僕にその事を教えてくれたのは、アンコールワットの日本語ガイドもしているという日本語が堪能な青年だった。「カンボジアにはアンコールワットには悲しい歴史があります。」

アンコールワット ジャングル
ジャングルの中にひっそりと佇むアンコールワット。

カンボジアの平均年齢はなんと24歳(当時)だという。その理由には1975年から1979年にかけて行われたポル・ポト政権による大量虐殺の影があった。総人口約800万人だった当時、たったの4年間で200から300万人もの人々が虐殺されたのである。ポル・ポトはフランスで共産主義を学び中国の毛沢東に強い影響を受けたとされ、原始共産主義を掲げた。階級や格差のない社会を目指し、学校や病院は閉鎖され、貨幣や戸籍は廃止され、多くの書籍も処分された。

医者や学者などの知識層はいらないとされ、次々と殺されて、次第に虐殺はエスカレートしていき、眼鏡をかけている、本を読んでいる、海外に行ったことがある。それだけの理由でどんどん殺さたという。

アンコールワット 歴史 悲劇
カンボジアに横たわる暗い影。

この悲劇のポル・ポト政権が終わった時、国民の85%が14歳以下だったと言う。

僕にこの話を教えてくれた彼は最後にこう言った。

「他国に侵略された訳でも無く、国内で起きた出来事、私たちの話である事が悲しい。多くの歴史的な書籍もその時代に処分されてしまいました。だけどカンボジアはこれからどんどん強くなります、だから私は勉強をします」

ちょうどその時、物乞いの小さな女の子が僕のそばに来て、「ワンダラー、プリーズ」と言ってきた。

一瞬戸惑う僕をよそに、彼はすかさずその女の子に少額の紙幣を渡し、女の子は笑顔で去って行った。

「カンボジアには物乞いの子供も沢山います、お金を渡す事をどう思いますか?」

僕は彼の質問に答えられなかった。彼は続けた

「お金を渡す事は、一時の解決にしかならないから本質的にはその子供を救う事にはならないと言う人がいます。私には答えはわかりません」

僕はただ頷く事しか出来なかった。

ベンメリア 遺跡
遺跡を飲み込む生命力
ベンメリア 遺跡
過去を乗り越え、大きく根ざすその姿を僕はカンボジアの人々と重ねずにはいられなかった。

トレンサップ湖 暮らし
トンレサップ湖に広がる水上都市
トレンサップ湖 水上都市
あまりの都市の大きさに全容を把握するのは困難だ

シェムリアップから程近い場所に、東南アジア最大の湖トンレサップ湖がある。この湖には世界最大規模で水上生活者が暮らしており、1ブロック1万人、100ブロック100万人以上の人々が暮らしている。

家はもちろん、生活インフラのあらゆる物が湖の上に存在しており、人々は小さな小舟で移動しながら暮らしている。一度沖に出てしまえば海と言っても驚かないくらい広大なその湖でもやっぱり生活の中心は子供たちだった。

トレンサップ湖 水上都市
教会も水上に存在する。
トレンサップ湖 子供
沈みゆく夕日と、子供達。

若者だらけのこの国はこれからどんどん発展していくだろう。極端な表現にはなってしまうが、大人の居ない国で育った子供達が大人になって新たなカンボジアを作り上げていくのだろう。僕が感じた若者が秩序の中心にいる街のエネルギーは、きっと数十年すれば成熟した社会へと変わって行くのだろう。そうなって欲しい気持ちと、そうならないで欲しいというエゴイスティックな気持ち、相反する感情を胸に秘め、水平線へ沈みゆく夕日を眺めていた。

まるで思春期のクラスメイトのような、人生でたったの一瞬、それもあっという間に終わってしまう儚さを抱えた、ネバーランドでピーターパンに出会ったかのような、そんな経験をさせてくれたこの時期のカンボジアは深く僕の記憶に突き刺さった。

#4 ラオス編へ続く