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TRIP 海外

【始まりのタイ】2012初めてのバックパッカー【#1】

※この記事は2012年のタイ、カンボジア、ラオスの旅を元に2019年に新たに書き起こしたものです。

2011年、渋谷のボロアパートでルームシェアをしながら、フォトグラファーになると言う夢を言い訳にダラダラと過ごしていた僕に3.11は突然やってきた。安易な僕は何かをしなければという衝動に駆られ、翌年には仕事を辞め大型のバックパックを背負いタイに降り立っていた。

#1 孤独と不安は突然にやってくる。

バンコク 空港 タクシー乗り場

さて、これからどうしようか。タイの空港に降り立った僕は初めての海外、それもひとりぼっちでポツネンと空港の外の喫煙所に佇んでいた。目の前にはタクシー乗り場がある。答えは簡単だタクシー乗り場の人に「カオサン通りまで行きたい」そう伝えればいいだけである。簡単な事なのになんだか怖気付いてしまい、なかなかその1歩が踏み出せないでいる。事前に調べたボッタクリや人気のない所に連れて行かれたなんて話が頭をよぎる。当時はiPhoneをsimフリーで海外で使うなんてまだそれほどメジャーでも無かった。

タイ カオサン 
混沌としたカオサン通り。当時の僕には刺激的だった。

勇気を出してタクシーに乗ってカオサン通りまで行って欲しいと伝える。深夜の高速道路を文字通りビュンビュン飛ばしてタクシーは進む。タクシーはカオサンに向かっているのか、それすら僕には知る術が無かった。しばらくボーっと車窓を眺めていると、タクシーが停車し運転手が到着したと言う。慌てて料金を支払おうとするが、両替したばかりのタイの紙幣にまったく馴染んでいない僕は慌てふためいて適当に大きめのお金を出してしまう。挙句に早く降りたい一心でお釣りはいらないと言ってしまう始末。結果300バーツ位多く払ってしまっていた。

タイ カオサン
ビールはいつだって僕の味方だ。

とにかく、宿とビールだ。先ほどのタクシーの件もあり引き続き気持ちで負けている僕はなんとか安宿にチェックインし、重たいバックパックを降ろすと布団に紙幣を撒き散らした。高額紙幣を別な財布にまとめ、使い勝手の良さそうな紙幣を数枚ポケットに忍ばせる。スムーズに支払いさえ出来れば大丈夫と自分に言い聞かせビールを求めて宿を出た。適当なお店を見つけチャーンビアを数杯飲み干し、支払いもスムーズに出来た時、初めて肩の力が抜け「行ける」と思い始めていた。(お酒の力で気持ちが大きくなっているだけである)ほろ酔い気分で街を彷徨い、宿周辺のある程度の土地勘を頭に叩き込んだら宿に戻り、倒れこむようにぐっすり眠りに落ちた。

タイ カオサン
翌朝、あてもなく歩き始めた。

翌朝、今日はカオサン周辺の観光スポットを散策しようと街に繰り出した。トゥクトゥクの運転手の「どこ行くの?乗ってきな!」って声を振り切るように、早歩きで街を歩く。

大学周辺の道で写真を撮っていると、ふと後ろからいきなり話しかけられた。「私はこの大学の教授です。あたなはどこから来ましたか?」真相は定かでは無いが、すごく聞き取りやすい英語で話しかけてきたのは初老の紳士だった。

「僕は日本人で初めてタイに来ました。」

「これからどこへ行くのですか?」

「どこへ行くのかは決めていませんが、しばらく散策しようと思っています。」

するとその紳士が何かをひらめいた顔をして「それならおすすめがあります。黄金の大仏です。無料です」そう言うと道を走っていたトゥクトゥクを止め行き先を伝えている。

なんてこった、これは詐欺にあうぞ。そんな胸騒ぎに僕の警戒心は急に高まった。それなのに僕は「OK!let’s go!」と陽気な運転手に言われるがままに、自称大学教授に苦笑いのお礼をしてトゥクトゥクに乗り込んでいた。

タイ トゥクトゥク バンコク
どうやって逃げ出そう。どこへ連れていかれるのだろう。そして何故か椅子のデザインが相撲取り。

ああ、なんって気持ちがいいのだろう。もう何処へでも連れて行ってくれ。警戒心マックスだった僕は完全にトゥクトゥクの風を感じる気持ち良さにいい気分になってしまっていた。「学生かい?」運転手に聞かれ、夢追う今は無職です。とは言えず「学生です」と答えてしまう。「旅の予定は?」と聞かれ「タイの次はとりあえずカンボジアに向かおうと思っています」「チケットは取ったのかい?」「いやまだなんです。」

しまった!嘘でもチケットは購入済みだと言えば良かった。これで僕は間違いなく怪しいチケット屋に連れていかれてしまう。もういいや、どうにでもなれ。それにしてもトゥクトゥクは気持ちが良い乗物だな。

黄金の大仏
僕が初めて訪れたタイの観光地。本当に入場無料の黄金の大仏様だった。

しばらくしてトゥクトゥクが停車すると「ゆっくり見てきな」と運転手に言われる。信じられない事に本当に黄金の大仏が目の前にあった。これには正直僕も驚いた。そして、控えめに行ってもしょぼかった。そして薄かった(物理的に平たい大仏だった)そして本当に入場無料だった。ゆっくり見てきなと言われた以上時間を潰さなきゃと思い僕は思いを巡らせた。周りには外国人観光客どころか現地の観光客も居なかった。あの自称大学教授の紳士は何故僕にこの大仏を見せたかったのだろう。もしかしたら由緒正しき場所で地元の人には人気のスポットなんだろうか。ワットポーやワットアルンといった有名な観光地を抱えながら、何故僕はタイで初めて訪れた記念すべき場所がここなんだろう。しばらく黄金の平たい大仏に問いかけてみたが結局真相はわからないままだった。

10分も経たないうちに僕はやる事が無くなり、トゥクトゥクに戻った。

「もういいのか?」

「もう十分だ」僕は答えた。

「次はどこに行きたい?」

「そうだね、ワットポーに行きたい」

ここら辺ではっきりさせなければ行けない。

「ワットポーまでいくらで行ってくれるんだい?」

「そうだな、200バーツでどうだい?」相場も分からなければどのくらい離れているのかも分からない。

「いや、100バーツで頼む」

「いや、それは無理だよ」

「僕は貧乏な学生だ。トータル100バーツしか払えない、この大仏にも来る予定は無かったんだ」

「OK!let’s go!」結果として、相場よりも安くトゥクトゥクを満喫して目的地まで行けてしまった。なんだか旅が軌道に乗り出しているような気がして僕は小さく高揚していた。

バンコク 街並み

#2 カンボジアの出会い編に続く